人が身を飾り装う長い歴史の中、装身具は元来単なる装飾品としてのアクセサリーというより、魔よけや護身といった呪術的な目的、あるいは地位や権威などの社会的立場を示す指標として用いられ、人間の精神史上で重要な役割を果たしてきました。
近世になると袋物・印籠・髪飾りなどの実用を兼ねた装身具が発達します。武家のみならず、幅広い階層の人々に用いられたこれらの装身具は、次第に個性的で斬新な趣向が求められ、その美的側面が著しく発達し、実用性よりも装飾に重きが置かれるようになります。ウィットに富む奇抜なデザインや、多様な素材・技法を駆使する高度な細密工芸技術は、現代人の目にも新鮮なものに映ることでしょう。
本展では、江戸時代から明治時代にかけて流行した袋物・印籠・刀装具・髪飾り・帯留めなどの装身具の数々を、国立歴史民俗博物館所蔵資料を中心に紹介します。日本の伝統的衣服としての「着物」の装いの原点である江戸から明治にかけての服飾における、これらの装身具の特徴とその果たした役割を明らかにしながら、都市を中心に華開いた豊かな生活文化を浮き彫りにします。身分や男女の別を越えて、おしゃれにこだわりをもっていた時代の息吹を感じていただければ幸いです。