根付は、日本の伝統的な装身具の一つで、たばこ入れや印籠といった携帯品を帯からぶら下げるときに用いる小物です。小さいながらも緻密な彫刻がほどこしてあり、その芸術性の高さから、近代以降はおもに欧米で評価されるようになりました。
また当館の所在する石見地方は、江戸時代において有力な根付の産地の一つでした。その創始者は、いまの江津市で活躍した清水巌(号:富春 1733~1810)で、子の文章、孫の巌水と三代に渡って根付製作に従事しました。その製作する根付は、技巧に富み、また他地域の根付には見られない多彩な特色をもっていることから「石見根付」と称され、今もって高い評価を得ています。
しかしながら近代以降、生活スタイルの西洋化に伴い、根付の需要がすたれると、清水巌ら根付作家の活躍の跡は、遠い過去のものとなってしまいました。こうした状況の中、石見根付の一派の事蹟を丹念に調べ、またその遺された希少な作品を収集し、彼らの顕彰に尽力したのが、地元江津市出身の七田眞氏 (1929-2009)でした。
本展では、七田氏の遺志により江津市に寄贈された根付コレクションを中心に、日本そして石見が誇る小さな美の世界をご覧いただきます。展示作品数、約40点。