笠岡市民に「白印さん」と親しく呼ばれる津田白印が没して70年になります。笠岡市立竹喬美術館では、南画家としての魅力を再確認する、これまでにない大規模な遺作展を開催します。
津田白印(1862~1946)は、笠岡の浄土真宗本願寺派寺院・浄心寺に生まれ、本名を明導といいます。幼くして真宗学を学び、19歳のおりには現在の福岡県豊前市の浄土真宗大教校・乗桂校において、本格的に仏教学と漢学を修めます。またこの頃に、長崎派の画家・成富椿屋に南画を学びます。学僧として真宗教学の教理を追究するとともに、明治33年には孤児収容施設・甘露育児院を創設し、大正12年には私立淳和女学校を創立するなど、社会福祉や女子教育の分野において献身的な活動をします。この間、諸事業の経費を捻出するため、また自らの修養と自娯を求めて、南画を数多く制作しました。日本南画の正統を学んだその作品は、深い学識と優れた人格を示すだけでなく、洒脱な遊び心も加味され、豊潤な味わいを醸し、今日においても観る人の心に沁み入ります。その世界は明快なものであり、大胆な構成と鮮やかな色彩によって創造されています。
このたびの遺作展では、従来から知られる《養真》(昭和10年頃、浄心寺蔵)、《双竹》(昭和16年、個人蔵)などの名品50点に、近年発見された《蒲に蟹》(昭和3年、ワコースポーツ・文化振興財団蔵)など新出作品20点を加えた、約70点の作品によって白印芸術の真髄をお伝えします。伝統的でありながら時代を超えた瑞々しさを備える、白印芸術の素晴らしさを味わっていただければ幸いです。