木村 辰彦(きむら たつひこ、1916-1973)は、清澄な色彩で静謐な静物画などを描き、日本の美意識でセザンヌをとらえ直したと特徴づけられる洋画家です。現在の東京都中央区に生まれた木村は、昭和8年17歳で二科会研究所に入所、昭和13年22歳の時、安井曾太郎(1888-1955)に師事し、同年に第2回一水会展に初入選を果たします。昭和26年第13回同展で一水会優賞を受賞するなど、師である安井にも将来を嘱望され、生涯を通して一水会を中心に活躍しました。木村の作品は、計算された構図と点描にも似た色彩表現に特徴があり、静物画に独自の画境をひらきました。身近な器や果物や花の真の美しさ、またそれらに囲まれた日常の尊さを柔らかい光の明暗をもって描きだし、詩情をたたえた癒しの時空が観る者を包みます。
木村の作品は私的に愛蔵されるケースが多く、本展では愛蔵家のご厚意により約50点を一堂にご紹介いたします。近代日本洋画の秀作を鑑賞すると同時に、美術や絵画と寄添う暮らしの幸福感を体験できる機会となるでしょう。