辰野登恵子は1950年、長野県岡谷市に生まれ、東京藝術大学および大学院にて絵画を学んだ日本の現代絵画を代表する作家のひとりです。1970年代初期よりポップアート的な表現に刺激を受けた版画作品などを制作。その後、コンセプチュアルな表現への展開を経て、80年代以降油彩画を中心として、絵画の豊饒さ、そして絵画空間の成り立ちの追求を続けました。
本展覧会は3章で構成し、まず第1章として、辰野の制作初期、1970年代初めのポップ的な表現から、作家自身「不毛なもの」と呼んだタイルや原稿用紙のマス目、またノートの罫線などをモチーフとし、それを揺り動かすような作品を展示します。続く80年代以降、辰野は油彩という素材を使って、平面性や空間性、色彩、かたちなど、絵画本来が持っている表現の可能性をつねに真剣に問いながら、自分自身の絵画を追求していきました。第2章では、その成果ともいえる油彩作品を展示します。また第3章では、2012年にパリのリトグラフ工房IDEMにて制作されたリトグラフ作品「AIWIP」のシリーズ9点をはじめ、比較的晩年に制作された作品にスポットを当てます。
宇都宮美術館所蔵作品を中心に、3章全43点の作品を通じて、辰野が初期の制作から一貫して興味を持ち、テーマとしていた「連続性と連続性の遮断や断絶」の展開を見据えながら、2014年に亡くなった辰野登恵子の絵画への取り組みを回顧する展覧会です。