現代の日本画壇を代表し、文化勲章受章者でもある奥田元宋画伯は、本年90歳を迎えましたが、いまなお精力的に制作を続けています。また、日本画を学びはじめた昭和5年(1930年)以来の画業も70年を越えました。
明治45年(1912年)広島県に生れた画伯は、同郷の洋画家南薫造にあこがれ少年期に油彩画を学びますが、上京後遠縁にあたる日本画家児玉希望に入門以降は、一時脚本家の道を模索する曲折を経験しながらも、画塾での研鑚をつづけ、昭和11年(1936年)の文展に初入選となります。人物画や静物画にも取り組んだ戦前戦中期の実験的な諸作のほとんどは残念ながら戦災で焼失しましたが、その失意をバネに故郷の山河を見つめ直した画伯が、戦後に風景表現を骨太に多彩に追求し今日に到っていることはよく知られています。自然味を重んじた明快で写実的なその作風の一方で、主観的な心象風景への傾きをみせる一群の作品は、異能の画家としての独自な絵画世界に深淵な厚みを加えています。
本展は、初期の油彩画をはじめ、幸い残った画塾での実験作や戦中の模索的な作品、そして戦後から近年までの風景作品と写生など70余点によって構成し、その優れた画業をふり返ります。