1985年2月、38歳という若さで他界した有元利夫。画家としての歩みが、その名を画壇に刻み始めてからわずか10年という短い間であったことは、遺された数多くの作品とその画業に寄せられたあまたの賞賛からは意外に感じられることでしょう。
かつて訪ねたヨーロッパの宗教絵画と日本の古美術とのあいだに共通点を見出した有元は、風化による時間の重なりや浮遊に認められる確かな存在感を、独自の絵肌と構図によって表現しました。
絵画に限らず、素描、版画、木や鉄などさまざまな素材による立体作品を制作した日々から見えるのは、多芸多才で“作りたがり屋”でもあった有元利夫という人物のありのままの姿です。そんな奔放な彼を支え続けた妻・容子氏の存在とさまざまな人との交流が、彼の真率で無垢な言葉によって日記などに留められています。制作の源泉ともとらえられるそれら言葉と想いを奏でる人生の譜を、120点の作品を通して丁寧に辿ります。