●一見何でもありといった様相を呈している今日の美術、それはいったいどのようにこれまでの美術の歴史に接続し、またいかにそこから飛躍し得るのでしょうか。21世紀をむかえた今日、他の領域同様、美術の世界も転換期にあります。過渡期のざわめきのなか、既存の形だけにこだわらない多くの表現が生み出され、美術というジャンルの境界は確実に流動化しています。けれども、新しい展開は既存の形の安易な放棄(リセット)ではなく、むしろその徹底した消化と内面化の中からこそ、精妙なニュアンスを帯びて静かににじみ出てくるものではないでしょうか。
●この展覧会は、美術史への連続と侵犯という矛盾を前向きに生き、転換期のスリルを予感させながら、いま、充実した仕事を結実させている10作家の作品を見るものであり、インスタレーション、立体、絵画、写真、ビデオ、音響などの様々な方法による試みの中から、今日の、そして、これからの美術について、何らかの展望をもてればという願いによって企画されるものです。
●ひとりよがりで難解と敬遠されがちな現代美術ですが、ここに出品される作品は皆、美術の大本にある、つくること、そして見せることについての深い問いかけの結果としてあり、その開放的なあり方は知的刺激に富み、また、さまざまな角度から楽しめるものでもあります。
●この展覧会は、東京国立近代美術館が同時代の美術へのアプローチを試みてきた「現代美術への視点」シリーズの第5回にあたります。美術館もいま、その存在を問われています。従来の美術館像に連なりながらも、そこに安閑とせず、新たな展開によって変化を模索していかなければなりません。この企画がその作業の一端となればと考えます。