和田英作(1874-1959)は、明治・大正・昭和を通じて洋画壇の重鎮として偉大な業績を残し、日本近代洋画の礎を築きました。堅実な写生を基礎にした穏健な画風を生涯守り続け、富士山をモチーフとした風景画、肖像画、薔薇の静物画などを情感豊かに描きました。
1874(明治7)年に鹿児島県垂水市で生まれた和田は、13歳頃から洋画を学び始め、曽山幸彦、原田直次郎から指導を受けます。その後、天真道場に入門し、黒田清輝や久米桂一郎に学び、1896(明治29)年の白馬会の結成に参加。同年開設された東京美術学校西洋画科の助教授に招聘されるも、和田は同職を辞して同科選科4年級に編入し、名作として名高い《渡頭の夕暮》を卒業制作として描きます。その後、4年間滞欧し、1903(明治36)年に帰国。33歳の若さで文展の審査員となり、1932(昭和7)年に東京美術学校の校長に就任、1943(昭和18)年には文化勲章を受章するなど、洋画壇を代表する画家として活躍し、日本洋画のアカデミズムの確立に貢献しました。
本展覧会は、和田英作の初期から晩年までの代表的な油彩画をはじめ、素描や下絵、1945(昭和20)年の疎開を機に愛知・知立や刈谷を描いた風景画などを含む90余点により、70年にわたる画業を振り返ろうとするものです。平成の世となり、忘れ去られつつある和田芸術の魅力を、今あらためて見直す絶好の機会となるでしょう。