日本を代表する写真家・濱谷浩(1915-1999)と土門拳(1909-1990)。報道写真家としてスタートを切った二人は、テーマは違えど、日本と日本人を知るために被写体に真摯に向き合ってきました。本展では、激動の昭和を生きた二人の足跡を、それぞれの代表作を通じて辿っていきます。
第一章では、『風貌』『學藝諸家』に代表される、激動の時代を生きた人々のポートレートを展示いたします。
第二章では、二人の戦中の仕事に迫ります。両者とも仕事としてプロパガンダ写真を撮る一方で、戦争から離れ、自らのテーマとした被写体に迫っていきました。土門は戦争から目を背け、文楽の興行に通いつめます。後年彼は「戦争がはげしくなるのにつれて、ぼくがほんとうに打ち込んだ撮影は、いま考えると文楽が主であったように思う」と述懐しているほど、文楽の撮影に並々ならぬ情熱を注いでいました。そして後にライフワークとなる古寺巡礼のきっかけを作った『室生寺』。土門はこの寺に、そしてなにより仏像に惚れ込み、その後何度も足を運ぶことになります。一方濱谷は、断絶の危機に瀕していた民俗行事を記録。「時代の移り変わるのは必然ながら、何らかの形で記録にとどめておくことは、同時代者の責任であり、写真の機能はそこに生きる」として、『雪国』を発表します。
第三章では、日本民族のかかえる問題を二人の視点が浮き彫りにし、そして社会を動かすまでを追っていきます。土門は原爆投下13年目の広島の現実を伝えた『ヒロシマ』、そしてエネルギー転換の国策によって多数の失業者が出た九州の炭鉱地帯に生きるこどもに焦点をあてた『筑豊のこどもたち』を発表し、いずれも大きな反響を呼びました。濱谷の発表した『裏日本』は、日本海沿岸の農村・漁村を取材したシリーズです。富山での一枚、女たちが胸まで泥に浸かって過酷な田植えを行う姿をとらえた作品は、社会を、そして行政をも動かしました。
本展が土門拳、そして濱谷浩の魅力を再発見する機会となることを願います。