本展では、北海道立近代美術館所蔵ガラス工芸作品の中から、17世紀ヴェネツィアで制作されたガラス作品をはじめ、19世紀フランスでのアール・ヌーヴォーを経て、現代のガラス作家による表現まで、近世近代ヨーロッパの作品を中心に、日本人作家の作品も含め、約120点の名品をご紹介します。
ガラス制作の発祥は、4千年前とも5千年前ともいわれます。正倉院宝物にもみられるように、古くからその透明な輝きと豊かな色彩は、洋の東西を問わず人々を魅了し、建築装飾や生活の器として用いられてきました。とりわけヨーロッパにおいては、15世紀のヴェネツィアで、それまでとは比較にならない透明度の高いガラスの器が制作されました。ヴェネツィアの技術はドイツやイギリスにも伝わり、ヨーロッパのガラス工芸品は洗練を極めていきます。
その後、19世紀後半のフランスで、エミール・ガレが登場し、ガラス造形に全く新しい地平が切り拓かれました。ガレは19世紀末に流行した芸術運動であるアール・ヌーヴォーを代表する芸術家であり、当時の制作技術の粋を尽くして、自然をモチーフとした曲線的な表現による装飾芸術をつくりあげました。
これに対し、20世紀前半には工業化社会の進展を反映して、ルネ・ラリックなどによる幾何学的・直線的文様を特徴とするアール・デコ様式の作品があらわれます。時を同じくして、芸術家意識が高まりはじめ、従来の工房制作から個人によるガラス芸術も発展していきます。
産業から芸術へ、工房から作家による制作へとしだいに変化していったガラス芸術は、現在、造形作品としての要素やガラスの素材そのものへの関心を強めつつ、多様化しています。しかしながら、昔の人々が追い求めた輝きと色彩を失ってはいません。何千年にわたって受け継がれてきた伝統とさまざまな表現をお楽しみください。