「書」とは墨と筆を用いて、紙などに文字を書きあらわしたものです。五彩を兼ねるといわれる墨で描かれた文字は、濃く、薄く、流麗に、あるいは力強く紙の上で変幻自在に色や形を変えます。本展では館蔵する古筆、宸翰 (しんかん)、そして大名の書の特徴や魅力をわかりやすくご紹介します。
古筆とは、「古い筆跡」の意で、鎌倉時代以前の書を指します。桃山時代になると巻子や冊子で伝わった古筆を切断し、断簡 (だんかん) (切 (きれ))にしたものを集めて帖に貼ることが盛んに行なわれましたが、当館では古筆手鑑「世々の友」(重要美術品)や「日本古筆手鑑」などの手鑑を所蔵しています。本展では、このたび東京大学史料編纂所の共同研究チームにより発見された、藤原定家『明月記』原本の新出断簡などを初公開し、皆様を雅な古筆の世界にいざないます。
宸翰とは天皇自らが書いた書のことです。貴族社会の頂点をなす存在であり、文化の担い手であった天皇の宸翰は、その気品や風格から珍重されました。岡山藩主池田家には、美しい料紙に雄渾な筆致が映える後奈良天皇(一四九六~一五五七)の宸翰(重要美術品)をはじめとする多くの宸翰が伝えられてきました。「書の王者」ともよばれる宸翰の魅力をご紹介します。
江戸時代の大名は教養として和歌を嗜み、書の修練を欠かしませんでした。池田家の歴代藩主も多くの書を残しています。初代藩主池田光政(一六〇九~一六八二)自筆の「風葉和歌集」抜書や、五代藩主池田治政(一七五〇~一八一八)が認めた「萬年亀」など、藩主の教養や性格をあらわした書のほか、伝家の宝物として大切に守られてきた一休宗純(一三九四~一四八一)の墨蹟や千利休(一五二二~一五九一)の自筆の書状などをご覧いただきます。あわせて、岡山県立博物館・岡山大学附属図書館と連携して、豊臣家が滅びた「大坂の陣」に関連する資料も特別展示いたします。
「すみいろ」があらわすのは王朝の雅や歴史だけでなく、それが書かれた時代や、書いた人々のこころや美意識です。本展を通して、書が持つ様々な魅力を感じていただけば幸いです。