2016年度の世田谷美術館分館・清川泰次記念ギャラリーでは、新しく収蔵された作品を、3期に分けてご紹介します。
学生時代に油絵を始め、戦後に二科展や読売アンデパンダン展といった場で活動していた清川泰次(1919-2000)。1951年、32歳となった清川は、「本当の絵画とは何か? 本当の油絵とは何か?」を探究するべく、単身、アメリカへ渡りました。そして、3年間の滞在を終えた1954年、ギリシャをはじめとしたヨーロッパ諸国、エジプト、インド、ミャンマー、タイなど各地を旅行し、帰国後に旅の記憶を数々の作品に描きます。旅先からインスピレーションを得て描かれた《エジプト-55》や《アテネ-56》などには、清川が目にした古代遺跡や街の風景が、抽象的な形として再構成され、画面に現れます。渡米を機に、疑問を抱いていた具象表現を離れ、本格的に抽象へと移行した清川が、新たに得た芸術観とスタイルで訪れた地を表現した作品と言えるでしょう。
旅行中に清川自身が撮影した写真も、当時の様子を鮮やかに伝えてくれます。慶應義塾大学に在学中、写真部に所属し、若い頃から写真に強い関心を示していた清川は、旅をしながら、たくさんの風景を撮影しました。カラーフィルムで撮影されたこれらの写真には、エジプトのピラミッドやギリシャのパルテノン神殿など、各地の遺跡が収められるとともに、車の行き交う街や、人々の生活の様子が捉えられています。
アメリカとは全く異なる光と景色に溢れた国々は、清川の眼にどのように映ったのでしょうか。シリーズ「新収蔵作品を中心に」の第1弾となる本展では、アメリカから帰国した直後の1954年から56年に制作された作品を中心に、約17点を展示します。また、併せて、旅先で撮影されたカラー写真を展示し、新たな絵画表現へと足を踏み出したばかりの清川が描き、写した地中海とアジアをご紹介します。