平成28年度第Ⅰ期収蔵品展では、洋画家・宮本三郎(1905-1974)の生涯にわたる画業のうち、画家を志し上京した頃から従軍画家として作戦記録画を手がけるまでの、活動前半期にあたる青年時代の軌跡をご紹介します。
石川県小松市に生まれた宮本は、15歳のとき画家になる夢を抱き、17歳で上京します。川端画学校で藤島武二らに学ぶほか、安井曾太郎に個人的に指導を受けていました。22歳で二科展に初入選を果たし、女性や裸婦、身近な家族を描いた、みずみずしい色彩感覚と巧みなデッサン力に支えられた作品は画壇で注目されるようになっていきます。雑誌の表紙絵や挿絵などの仕事も多く引き受け、多忙な毎日を過ごしていましたが、1938年、33歳で初めての渡欧を果たします。画塾アカデミー・ランソンに通い、ルーヴル美術館で模写に励む日々は、研鑽を積み自らの画業を見つめ直す時間でした。しかし充実した滞在もつかの間、第二次世界大戦勃発とともに帰国を余儀なくされ、戦地に赴き従軍画家として制作を重ねます。戦後になると、作戦記録画を描いたことで厳しい視線を浴びるなど、戦中とは一変した価値観の中で、宮本は新たな画題に取り組むことで画家としての再出発に踏み出します。終戦という出来事を宮本にとっての一つの転換点ととらえ、本展では1945年までの画業、次の第Ⅱ期収蔵品展では、戦後から晩年の絢爛な裸婦像に到達するまでをご紹介します。
15歳から終戦を迎える40歳までの宮本の25年間は、“生涯の師”と呼んだ藤島武二や安井曾太郎との出会いや渡欧体験を通し、多様な技法と表現を貧欲に吸収し、独自の表現を生み出すための素地を築き上げていった時期です。戦争に象徴される激動の時代に直面しながらも、筆一本で立つことをめざし、日々制作を重ねた洋画家の青年期を追いかけます。