水辺に佇む民家。その風景は、水が人々の豊かな生活を支えてきた証だといえるでしょう。時に厳しい自然は人々の生活をおびやかしますが、海や川は、常に人々へ多くの実りと恵みをもたらしてきました。
戦後、全国各地を訪ね、伝統的な民家を描き続けた洋画家・向井潤吉(1901-1995)は、山間や町の風景だけでなく、そうした水辺の情景を描いた作品も数多く残しました。海や川に寄り添うように佇む民家の姿、そして、漁や田植えといった、人々の風土に根ざした生活にも、目を向けています。
向井は、木々の枝ぶりや生い茂る草花を、ごく細い筆を用いて細密に描き出し、清らかな小川の流れや、満々と水をたたえて白く光る川面もまた、巧みな筆遣いであらわすことによって、静かさと穏やかさにあふれた画面を創りだしています。
本展では、当館所蔵の油彩作品、水彩作品の中から、水辺にある民家と、そこで暮らす人々の生活の様子を描いた作品を集め、ご紹介します。向井の多彩な絵画表現に触れつつ、水辺ならではの風情をお楽しみいただければと思います。