杉本博司は、代表作《ジオラマ》、《劇場》、《海景》といった写真シリーズで世界的に知られる現代作家です。
一方で、古美術商の経験を持ち、日本美術にも大変造形が深く、三十三間堂の千体仏を写した《仏の海》をはじめとする日本の伝統美を自身の写真に取り入れる作品も手掛けています。さらには、2003年より世界各地を巡回した展覧会「歴史の歴史」において、自らコレクションした古美術品と自作を組み合わせたインスタレーションも試みています。まさに、現代美術の世界で古きものに新たな生命を注ぎ続けている作家と言えるでしょう。
本展では、平安時代から江戸時代の作品を中心に、西洋伝来の作品、昭和の珍品を含む杉本コレクションで27の床のしつらえを作りあげています。これは『婦人画報』で連載された「謎の割烹 味占郷」の中で、杉本が各界の著名人をもてなすために、毎回そのゲストにふさわしい掛軸と置物を選んで構成した床飾りを再現したものです。同時に、「趣味」として蒐集した古今の名品・珍品を組み合わせることで、新たな「芸術」をも生み出そうとしています。
現代美術の枠を超え、活動を続ける現在の杉本をご覧いただき、この作家の魅力と奥行を十分に味わっていただければと思います。