齋藤富蔵は、故郷の宇都宮で長年にわたり独自の芸術を追い続けた画家です。1919年、宇都宮市に生まれ、1932年に入学した宇都宮市商業学校(現・栃木県立宇都宮商業高等学校)の商業美術部での作品制作をきっかけに絵画の道を志しました。卒業後は京都で日本画を学びますが、ほどなく東京で中西利雄や荻野康児に師事し本格的に水彩画を学びはじめます。1961年に病を得て宇都宮に帰郷した直後こそ苦労しますが、1964年からは3年連続の個展開催、1966年からは自宅に開設した絵画研究所で後進の指導にあたるなど、充実した活動を展開しました。齋藤作品の大きな特徴は、マチエール(画肌)の圧倒的な存在感にあります。とりわけ60年代の作品群では、“水彩画”の一般的なイメージからはかけ離れた厚塗りの作品を制作します。モチーフの質感を執拗なまでに追求することで、齋藤は独特の詩情を生みだすことに成功しました。一方70年代中頃からは作風を大きく変化させ、奥日光に取材した風景をバックに蝶や牛を大きく描いた作品を数多く手がけます。さらに80年代からはやはり同地の自然を幻想的に描いた「深山シリーズ」を展開しますが、それらの作品群を通じて齋藤は自然破壊を推し進める現代社会に対して厳しく警鐘を鳴らしています。本展覧会では、半世紀にわたる画業から代表作を中心に約140点を展観することによって、この知られざる画家の全貌を紹介いたします。