梅雨が明けると本格的な夏が到来します。人々は様々な工夫をして暑さをしのいできました。涼やかなモチーフの描かれた絵画や工芸品、ガラスや麻といった素材そのものに、人々の涼を求める工夫が看て取れます。古代にまで遡ると、涼とともに恵みをもたらす雨への、人々の切実な願いがこめられます。天長 (てんちょう) 元年(824)、弘法大師空海 (こうぼうだいし くうかい) が平安京神泉苑 (しんせんえん) で祈雨の修法を行ったことにはじまる「請雨経法 (しょううきょうほう)」では、本尊である請雨経曼荼羅 (まんだら) に龍が重要な図像として表されます。龍は中国では四瑞の一つとして尊ばれるおめでたい動物です。特殊な霊力をもつ龍は、絵画や工芸品の中で様々に表されます。一方、「登竜門 (とうりゅうもん)」の故事にあるように、数ある魚の中でも鯉 (こい) は、龍のイメージから派生し「立身出世」「子孫繁栄」を象徴するデザインとして好まれました。また、山水図を構成する重要なモチーフである滝は、飛沫 (しぶき) のほとばしる激しい水流が水墨の技法で巧みに表されます。
展覧会では水辺の風景や生き物といった、涼やかなモチーフの表された絵画や、素材そのものに涼を感じる工芸品を展示します。中でも「滝」「鯉」「龍」に着目し、特別出陳作品を交え、涼を呼ぶ美術をご紹介します。個々の作品に込められた人々の願いや美意識をお楽しみ下さい。
(担当 古川攝一)