よく知られているように、古くから絵画は人々の間に広く浸透している物語を描き表してきました。文学からの自立なくして近代的な絵画ではないと考えられた明治時代以降も、絵画と文学とのつながりは途切れることはありませんでした。例えば、キリスト教や仏教の説話、各地の神話、古典文学や歴史的な物語をテーマにした作品は枚挙に暇がありません。一方で、個人的な感興に形を与えた画家たちの存在も見逃すことはできません。自然に接する中で、あるいは私的な生活の中で立ち現れた感興の表象として詩と絵が渾然一体とした作品が生まれました。また、世界観や死生観を普遍的で壮大な物語として捉えるならば、個々の作家のうちにある実に多様なストーリーが絵画に託されてきたといえるでしょう。
当館では2015年秋の特別展「画家の詩、詩人の絵」において詩情溢れる絵画を大々的にご紹介しました。それを受けて本展では、物語を内包した絵画約30点を展示いたします。絵が語りかけてくる多様な物語を読み取っていただければ幸いです。