アメリカ主導で展開した第二次世界大戦後の美術、いわゆる「現代美術」は、1970年代頃には極小の表現である「ミニマル・アート」を経て、作品を制作することよりも、制作の概念の方を重視する「概念芸術(コンセプチュアル・アート)」という、いうなれば伝統的な美術表現を拒否するような状況に至り、完全に停滞していました。この状況を打破し、コンセプトよりも、自分の芸術的な主観をそのまま表現したいという画家たちの欲求と、「絵」らしい「絵」を見たいという観衆の欲求は、1980年代の初頭に共に高まりを見せて合致し、ひとつの爆発的な現象を生み出しました。大画面に死とエロスという人間の根源的な主題を描く、一群の具象画家たちが現れたのです。イタリア、ドイツ、そして日本といった、いわば美術の辺境からやって来た彼らは、瞬く間にアート・シーンを占拠し、時代の顔となりました。彼らは20世紀初頭に現れ、近代美術に革命的な美術表現をもたらしながらも時のナチ政権によって「退廃芸術」として弾圧され、潰えた「ドイツ表現主義」の画家たちの再来に擬えられ、「新表現主義」と総称されました。見方によっては後ろ向きの運動であるゆえに、一部の批評家からは酷評され、「ニュー・ペインティング(新しい絵画)」という別称には「蔑称」のニュアンスもありました。そして、激しい熱情に身を任せて制作するゆえに、必然的に早くも80年代半ばにはこの運動は沈静していきますが、この時代に描かれた作品の多くは未だ熱い血潮をたぎらせます。またこの運動の洗礼を経て、自らの様式を確立した画家たち、例えばアンゼルム・キーファーやゲオルク・バゼリッツらは、現在でもアート・シーンの頂点に君臨しています。
南国高知にふさわしい美術として、当館では開館以来これら「新表現主義」の作品を収集してまいりました。これまでもコレクション展で部分的に公開しておりましたが、今回は「シャガール展」の展示室と県民ギャラリーを除く当館の主要な展示室すべてを使用し、一挙に公開いたします。