草花や木々を愛でて喜ぶ気持ちが人種にも宗教にもよらず万人に共通であるからこそ、農業や林業とは異なる園芸という文化が育まれてきたのでしょう。
こんにち、多くの人がガーデニングと呼び趣味として楽しんでいる園芸。そのルーツのひとつとして、いわゆる英国式庭園があります。美しく咲き誇る花々が人々を魅了してやまないイングリッシュ・ガーデン。しかし南国ではないイギリスに、どうして植物に関する多様な技術が発達したのだろうか、と考えれば話は数世紀前へとさかのぼります。ヨーロッパ文明が冒険心と探求心で行動範囲を大きく広げた15世紀から17世紀の世にいう大航海時代、世界各地で活発に植民活動が行われる一方、冒険者たちがたどり着いた先々で“発見”したさまざまなものごとのうちのひとつ、それはいままで誰も見たことのない美しい花々.....。そして19世紀、世界で最初に工業化をなしとげ、大英帝国として栄華の絶頂をむかえつつあったイギリスは、同時にまたダーウィンに代表される近代的知性の時代にあって、科学の先端的な活動として、世界各地の珍しい品々を―「プラントハンター」と呼ばれる採集者たちが植物標本を―本国に持ち帰ったのでした。イングリッシュガーデンを彩る花々、それは数世紀にわたる憧れと知的好奇心の産物なのです。そしてつけくわえれば、写真技術のなかった時代に、記録の必要性から数多くの植物画が制作されたであろうことは想像に難くありません。
18世紀、ロンドン郊外に誕生したキュー王立植物園は世界最大の規模、そして植物に関する世界最高水準の研究機関として2003年にユネスコの世界遺産に登録され、年間130万人以上の人がおとずれる観光スポットにもなっています。その収蔵する植物標本は実に800万点、そして22万点を超える世界最大の植物細密画=ボタニカル・アートのコレクションを擁しています。
この展覧会はキュー王立植物園の全面的な協力により、同園が所蔵する膨大なコレクションのなかから、17世紀から現代に至るボタニカル・アートの数々、そしてウィリアム・モリスらに代表される、装飾芸術に植物をとりいれた工芸やデザイン作品などを含め約150点を展示いたします。