点的なものの息づかい 加賀谷武の新作をめぐって
美術評論家 早見 堯
世田谷美術館でフリオ・ゴンザレス展が開催中だ。ゴンザレスは鉄の溶接、すなわち、アサンブラージュ(組み合わせ)によって、ピカソやアレキサンダー・カルダーと共に、伝統的な閉じた塊彫刻を開かれた空間彫刻へと革新させたイノベーターとして知られている。展覧会の会場を巡って、展示場の後半部分を訪れたとき、加賀谷武の新作「Gold Space」とこれまでの作品が、ゴンザレスの作品に重なりあってきた。
ゴンザレスは金工職人から出発し、伝統的なモデリング彫刻を経て、鉄の面や線を溶接して組み合わせた「開かれた空間彫刻」にたどりつく。ブランクージやピカソなどのアヴァンギャルドの影響が濃厚だ。加賀谷も工芸から始めて、二科会のアヴァンギャルドのイニシエーションを経験している。二人はなんだか似ているなあとは、展示会場に入る前から感じていた。
1930年代、ゴンザレスは面と線による「開かれた空間彫刻」をつくりながら、並行して、石を使ったカービングの塊彫刻を制作していた。これらの石の彫刻に加賀谷の「Gold Space」がダブってイメージされたのだった。
ゴンザレスは鉄の面や線によって空間を可視化した。他方で、閉じた塊の大地(石)をカービングして、そこに空間を挿しこんだ。アーティストとしての長いキャリアのなかで一貫して開かれた空間をとらえようとしてきたのが加賀谷武だ。ゴンザレスよりも明確なプリンシプルに貫かれている。加賀谷は、最初は面的な要素を中心にして、その後、1978年を境に線的な要素で空間を活性化してきた。作品集「空間の探索者 1953年から現在までの仕事」におさめられているテキストでわたしはこのことを書いた。
新作「Gold Space」では、川や大地などから集めた石が金で塗られている。発見されたオブジェといった趣で、塊状態だ。塊だと見る者の視線が求心的にオブジェに集中する。けれども、オブジェは金色に輝くことで求心とは逆に、非物質的な光のように周囲の空間に拡散していく。1978年の「間」では一つの平面が分割されていた。逆に考えると、複数のピースが接合されている。枠だけの作品でも、枠で囲うことは、枠の内と外とをつなぐことでもある。
野外でのロープのインスタレーションは、拡散してとらえどころのない空間に、線的な空間への刻印によって、空間に求心力を与えていた。「Gold Space」は点的なものによって、求心と拡散、息づき呼吸する空間の生動感を感じさせるだろう。それは、わたしたちがその中にいるリアルな空間なのだ。
(はやみ たかし)