かつて未来だったものは、いつかかならず現在になり、そして過去になります。開館20周年を迎えた豊田市美術館では、常に移り変わる時間における「いまここ」を、コレクションを通して見つめ直します。
当館は、2014年に逝去した作家・河原温の作品を、国内で最も多く所蔵している美術館です。その代表作である、当日のうちにその日の日付を描く<Todayシリーズ>は、極めて単純で限定されたストイックな表現のうちに、時間というものの不可思議さを語って余りありません。目に見えない時間が読める絵画として現前するパラドクスは、日常性と歴史、部分と全体、一瞬と無限、出現と消滅などの様々な両義性を含み込んでいます。本展では、一か月分の<Todayシリーズ>と当館のコレクションを並置することで、その両義性が生み出す多様な面を明らかにします。隣り合う作品はそれぞれ呼応し合い、また差異を際立たせて、時間、空間、歴史、芸術、概念といった、人間にとって不可欠な問いを浮かび上がらせるでしょう。
時間は、人間が作り上げた世界を貫流する尺度ですが、私たち一人一人の内的な体験にしかそのリアリティを持ちえない、実に得体の知れないものでもあります。本展に展示される作品に向き合うことで、その“時間”さえも超えて、今作品を前に立つ私たち自身の意識が鮮明に照らし出されるでしょう。