鹿児島県薩摩郡さつま町(旧宮之城町)出身の金工作家 帖佐美行(1915-2002)は、彫金の伝統的な技法に現代的な感性を反映させ、建築空間に調和する壁面装飾や、生活を彩る器物など、新たな金工の可能性を広げる分野に挑戦しました。
このたび、生誕100年の節目を迎えるにあたり、彫金界の第一人者として現代工芸史に大きな足跡を残す仕事を振り返るとともに、当館が所蔵する作品から改めてその魅力を見つめます。
帖佐の作品は、金属という素材のイメージ、硬さや冷たさを感じさせない、温かく柔らかなフォルムと表現が特徴です。用と美の両立を追求した作品は、金属の多彩な表情を引き出しています。
幼い頃から自然を写生していた帖佐は、生涯に亘って鳥や植物など身近な生きものをモチーフに制作しました。師の海野清から受け継いだ観察の重視により、作品には自然界の輝きが見事に表されています。
本展覧会では、対象と素材に真摯に向き合うなかで生まれた作品をより深く味わっていただくため、図案下絵もあわせてご紹介します。
作品を通じて、新しい生命が生まれ出づる、ひとあし早い春の訪れを感じてみてはいかがでしょうか。