今からおよそ100年前の1913(大正2)年、26歳の若き藤田嗣治(1886-1968)は、画家を志してフランスへ渡りました。藤田はパリ到着の翌日にはピカソに会い、まもなくリベラやブラックと知り合い、その後モディリアーニ、マティス、ローランサン、ドラン、ユトリロ、スーティン、キスリングなどとも交遊します。藤田の画家としての才能や飾り気のない人柄は、瞬く間にパリ美術界で人脈を広げていきました。
1917年、シェロン画廊での初めての個展は、パリ画壇の好意的な批評を得、ピカソは藤田の絵の前で3時間も唖然としたままであったと伝えられています。やがて、乳白色の下地に裸体像を描くという藤田独自のスタイルが登場すると、社交人たちの肖像画の注文を数多く受けるようになり、一気に黄金時代を迎えました。
今回の展覧会は、1920年代のエコール・ド・パリ全盛期、生活をともに過ごした妻リュシー・パドウ(彼女の肌の色が雪のように白く、「ユキ」と呼ばれていた)のために藤田が描いた26点の素描を中心に、当館収蔵のパリの画家たちの作品を一堂に展示するものです。ことに26点の素描は藤田と親しい画家たちの絵を描いていて、同時代を生きた画家仲間との交遊の深さと、その多彩な才能ぶりを改めて感じさせます。きっと画家藤田嗣治の新たな魅力を発見していただけることでしょう。