公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第239回として、「鳥のように 川井幸久展」を開催いたします。
二科会会員の洋画家・川井幸久さんは、昭和9年に久慈郡大子町に生まれました。茨城大学教育学部美術家を卒業後、故・服部正一郎(日本芸術院会員)に師事し、大子町で教員を続けながら主に二科展に発表してきました。42年に美術教育調査団としてのヨーロッパ研修以降、しばらくは外国の風景を描いていましたが、51年頃から自分にしか描けないモチーフとして地元の風景を主に描くようになりました。
茨城県北部にある大子町は、四方を山に囲まれています。しかしこれらの山は険しく切り立つようなものではなく、目を上げれば山の全貌が捉えられる位コンパクトなものです。こうした山と町の程よい距離を持つ風景を川井さんは愛おしみ、描き続けています。「山の形をそのまま写すだけでは自分の絵にならない。主体的に山を捉えて実風景を基に創造してこそ、自分だけが描ける絵になる」と、川井さんは言います。あたかも空を飛ぶ鳥が見ているように通常よりも少し高い位置からの視点で風景を捉える独特の構図は、描く対象の風景を熟知しているからこそ可能なのです。
川井さんは冬の奥久慈を好んで描いてきました。雪が残るその風景は、まだ寒さの厳しい中に春の到来を予感させる景色です。確かなデッサン力で山の稜線を描写し、中腹の谷間や麓には集落や町が静かに寄り添います。メインの山に比べてごく僅かに描かれる電柱や山道のガードレールなど人の営みの気配が、作品に哀愁と優しさをもたらし郷愁を誘います。
今展では第1会場の藝文ギャラリーで奥久慈の風景を描いた優品16点を二期に分けて展示するほか、第2会場の藝文プラザで袋田の滝を描いた大作などの油彩画16点を展示いたします。
公益財団法人 常陽藝文センター