川越の旧家・安齊家の第13代当主安齊羊造 (あんざい ようぞう) (嘉永6~昭和13年/1853-1938)は、明治~大正期に活躍した日本画家たちとの交流を介して絵画を収集した、当時はよく知られたコレクターでした。
幕府表絵師・狩野素川章信と姻戚関係にあった祖父、歌道にいそしんだ父母、という文化的に恵まれた環境の中で羊造は育ちました。家督を継いだ羊造は、横浜に出て生糸商・野沢屋(のち茂木商店)に精勤し、安定した生活を基盤に、主に日本美術協会や日本画会で活躍していた画家たちと直接やりとりを重ねてコレクションを形成してゆきます。
最盛期には近世絵画をも含む厖大な作品数を誇ったコレクションは、大正12年(1923年)の関東大震災で罹災してしまいました。しかし、私家版『木綿園 (ゆうぞの) 画集』や、震災前に羊造の手を離れた作品、そして幸いにして難を逃れた大量の書簡類などから、羊造と画家たちとの愉快な交流が具体的に浮かび上がります。
本展は、そうした諸資料から羊造の収集活動を紹介し、コレクターと画家たちとの親交の実態を明らかにしようとするものです。現在語られる近代美術史の陰に隠れた近代日本画界の一端にもスポットを当てることとなるでしょう。