紫式部によって著された『源氏物語』の絵画化は、その成立からほどなくして試みられていたと考えられていますが、それらは全て失われ、十二世紀前半に当時の宮廷を中心に製作・享受された国宝「源氏物語絵巻」が現存最古の遺品です。原作の雰囲気をよく伝えているにとどまらず、爛熟した王朝時代の伝統をふまえた、研ぎ澄まされた感性による絵画表現、美麗に装飾された料紙にしたためられた、詞書の優美な書など、今も見る者を魅了してくれます。
徳川美術館開館八十周年を記念するこの展覧会では、十年ぶりに国宝「源氏物語絵巻」全場面を一堂に公開します。特に、徳川美術館所蔵の絵十五場面は保存修理がおこなわれ、修理後はじめての展示となります。あわせて、「よみがえる源氏物語絵巻」として知られる平成復元模写を含め、江戸時代から現代にいたる「源氏物語絵巻」の模写の系譜をたどります。平成復元模写は、できうる限り原本と同一素材・同一技法で制作するという基本理念のもとに模写が推進され、平成十一年から六年の歳月をかけて完成しました。
秋に一日、王朝の美の世界へといざなってくれる「源氏物語絵巻」をご鑑賞ください。