自己を厳しく見つめ、「いのちとは何か、人生とは何か」を鋭く問いかけた画家鴨居玲(1928-85)が、昭和60年(1985)9月7日、57歳でこの世を去って早くも30年になります。この間いくつもの回顧展が開かれ、そのつど鴨居の作品は人々を魅了してきました。
鴨居玲は金沢で生まれ育ち、金沢美術工芸専門学校(現金沢美術工芸大学)で宮本三郎に師事しました。卒業後は関西に移り、宮本たちの創設した二紀会を中心に作品を発表します。しかし、抽象絵画全盛の時代、制作に迷い南米に旅立つのでした。鴨居の破天荒・破滅型の自己探求の旅が始まるのです。昭和44年(1969) 41歳の時に、昭和会展優秀賞と安井賞を受賞し、一躍脚光を浴びます。しかし、飽きたらぬ思いは、スペインのバルデペーニャスに新天地を求めさせ、村人達との交わりの中から「酔っぱらい」「廃兵」「おばあさん」など、生涯のテーマをつかむのでした。その後パリへ移り、そして52年(1977) 49歳で帰国。以後8年間、神戸にアトリエを構え《1982年 私》をはじめ、数々の自画像を描き続けたのでした。
本展は約100点の作品と資料で構成するもので、油彩の代表作に加え、鋭く美しい線が刻まれるデッサンを数多く展示します。また鴨居が用いた絵筆、パレット、イーゼルなどの画材や遺愛品などによって、鴨居玲という魅力的な人物に触れていただきたく思います。
なお、本展に合わせ、コレクション第3展示室は、鴨居の二紀展初出品作《青いリボン》や《石の花》《蜘蛛の糸》などの油彩と、鴨居の没後アトリエに残されていた未完の作品、書簡、遺愛の刀剣など約50点を展示します。どうぞ企画展とあわせご堪能ください。