記憶の奥底に閉ざされた、限りなく静かで美しい、そして忘れがたい光景を呼び起こす、モノトーンの銅版画。
銅版画家、池田良二(1947年北海道根室生まれ/武蔵野美術大学 油絵学科版画専攻 教授)は1965年に武蔵野美術大学に入学し山口長男や野見山暁治のもと絵画を学びます。1975年独学で銅版画制作をスタートさせ、国内外でのコンクールに出品する中で頭角を現すようになります。
70年代の「à/avec Antoni Tàpies」シリーズ、80年代の「Note-two square」シリーズ、80年代後半以降続く「原風景」をテーマにした作品群、2000年代以降の「円環」をモチーフにした一連の作品と、時代ごとに特徴が変遷するなかで版表現を拡張させながらも、自身に内在する根源的形象を探る求道者のごとく作品を純化させていきます。フォトエッチングを中心に複数の銅版技法によって作り出されるモノトーンの静謐で緊張感ある銅版表現は、国内外で高い評価を得て、ソウル国際版画ビエンナーレ大賞(1990年) タカシマヤ美術賞(2003年) 山口源大賞(2005年)などを受賞、2009年には紫綬褒章を受章しました。
本展では、初期の版画作品から現在に至るまで、新作や大型版画を含めて約60点の銅版作品を中心に紹介します。透徹した版表現によって、静慮された形象をモノトーンの純粋平面に描き出すことで、現代版画の地平を開いてきた池田良二の航跡を辿ります。また、本展では書籍やポスターの原画などによる銅版画表現の広がりを紹介する一方で、陶芸や木工芸、茶道関連へと展開する多才な一面にも触れます。