小曽根 環 ─ゆらぎの空間を求めて
「35年来のテーマは、子どもの頃に体験した、ゆらぎの空間を再構築すること。」 小曽根は自らのその体験を、朽ち果てた木目がもたらす「ゆらぎのリズム」による独創的な心象表現へと繋げている。
まず小曽根は、綿麻を墨で染め出す。何度も繰り返し、時間と労力を費やしてのテクスチャー創りである。それをパネルに貼り、胡粉で表現していくという独自の技法を編み出している。地と図はやがて融合し、心地良い波長を発する媒体と化す。画面との対話を重ねる毎に、小曽根の深い精神性が投影されていくように映る。この過程から、垂らし込みのような風合いが生まれ、当意即妙な造形と色の構成が創出されている。
昨春東京で開いた個展「星霜」や、今回の個展「たたずまい」と題した作品からは、表層の自我の世界を表現するのではなく、小曽根の幼少期の追想の中で現れたイメージを、哲学と造形との接点という手段により第三者へ伝えようとする制作意図にも腐心しているのが窺える。
昨春の東京での個展「星霜」会場は、小サイズのパネルを壁面中央に多数配置することで、3次元空間への橋渡しとし、左右には大サイズのパネルを布置するというインスタレーションを敢行している。壁面中央のパネル群は、まるで波紋のような表情を見せ、不思議な空間を醸し出している。画廊空間に佇むと、私たちは作品とのイメージの交感を誘発され、オリジナルな空間構成を全身で体感することになる。
そして今回の個展では、サブタイトルを「1/fゆらぎ─記憶のアーカイブ」とし、1960年代に確かにそこにあったゆらぎ空間を心に焼き付け保存し、今一度ギャラリー島田に再構築し提示していくという。私たちは小曽根の作品に対峙し、設えられた時空間のなかで、自分の存在や作家に宿る心象風景を自問自答することになるだろう。
何れにしても、私たちは抽象と具象の間(あわい)を求めている小曽根の穏やかで、豊かなイマジネーションを感じられる場に佇む機会を楽しみに待ちたい。
(BBプラザ美術館顧問 坂上義太郎)