広大な大草原を舞台に遊牧生活を営んできたモンゴルの人々。かつて13世紀には世界帝国を築き上げましたが、それもやがて瓦解し、19世紀には清朝の支配下に入り、清朝滅亡後はソビエト連邦の強い影響下にありました。現在は1992年の民主化を経て、モンゴルは新たな道のりを歩んでいます。本展では、その近代化の足跡を美術を通してたどるとともに、日本を始めアジア諸国の近代美術に共通の課題と、モンゴル美術の独自性について探求します。
チベット渡来の仏教美術との密接な関係のもとに展開されてきたモンゴル美術ですが、その絵画における近代化の萌芽は、20世紀初頭、革新的な表現を展開した画家B.シャラヴに始まりました。その後1940年代頃から、N.ツルテムやG.オドンといったソビエトで学んだ画家たちによる、社会主義的リアリズムやロシア印象派の影響を受けた作品が登場します。その一方で、伝統的な「モンゴル画」のジャンルにも、西欧の技法を取り入れた新しい傾向が生まれました。画家たちは、社会主義政権の下、表現の制約はありましたが、国の支援を受けて制作を行いました。そのため、モンゴル国内には質・量ともにすばらしい近代美術のコレクションが残っています。1990年代には、民主化の動きとともに、それまでタブーとされていた画題も描けるようになりました。それらの作品には、モンゴルの人々の独特な世界観や自然観がこめられています。
これまで日本はもちろん世界でもモンゴル近代美術の通史的な展覧は試みられたことがありません。本展は、モンゴル国立美術館、ザナバザル美術館、モンゴル芸術家組合、福岡アジア美術館の所蔵作品約100点で、知られざるモンゴル近代美術の流れを俯瞰します。