鈴木春信(1725?~1770)は、錦絵創始期の第一人者として知られる浮世絵師です。明治期(1764-1772)はじめに錦絵が誕生してより没するまで、人気絵師として活躍したのはわずかな短い期間でしたが、おそらくは1000図以上の優れた浮世絵版画を世に送り出しています。
春信が好んで描いた若い恋人たち、母と子、さりげない日常…、またその画面に重ねられた絵暦の遊び、見立絵と呼ばれる主題上の趣向など、春信は小さな画面の中に、詩的で洗練されたイメージと江戸っ子らしい洒落の世界を豊かに築き上げました。古典文学に多くのテーマの発想を求めた春信の作品は、江戸時代その当時のさりげない風俗のありさまを描いていても、たとえば平安時代の雅びやかさを感じさせる格調の高さがあり、古く和歌などに表されてきた日本人の季節感や恋心を現出するかのような気分があります。
そしてこの時代に色数の多い木版画が摺られるようになり、あざやかな色彩の錦絵が誕生したことは、当時の人々にとって衝撃的なメディア改革であったことでしょう。
幾層にも魅力を重ね、色を操る春信の豊かな表現は、21世紀を迎えた現在もなお我々の目には驚きであり、また同時に深い安らぎを与えてくれるものでもあります。ながく切望されながらも、優れた作品の多くが海外美術館にあることから果たされなかった本格的な春信の展覧会がここに実現されます。国内ばかりでなく海外の美術館に所蔵される265点の選りすぐりの作品により、春信芸術の粋をご堪能ください。