兵庫県ゆかりの洋画家、鴨居 玲(1928-1985)は金沢市に生まれ、金沢美術工芸専門学校(現・金沢美術工芸大学)で宮本三郎に師事し頭角をあらわします。その後、制作の苦悩を打開するために南米、パリ、ローマを旅することで作品を劇的に深化させ、安井賞をはじめ輝かしい受賞歴を得ますが、日本に安住することなく再びパリ・スペインで研鑽を積みました。特にスペイン、ラ・マンチャ地方で交流した村の人々の姿に自己を投影した作品群は、人間の内面を鋭く抉り出し、見る者を圧倒する迫力に満ちています。そして、渡欧前および帰国後は阪神間に画室を持ち、同地で没するまで、人間の本質的な部分である、孤独、不安、運命、愛に正面から対峙することで独自の崇高な芸術世界を築き上げました。その自己追及の苦悩から生み出された深く暗い色調の画面には、見る者を強く鼓舞してくれる、生きることへの光明が見出され、没後30年を迎える今なお、多くの人々を惹きつけ魅了する力に満ちています。
本回顧展では、10代の自画像から絶筆まで、57年の生涯で残した油彩の代表作をはじめ、素描、遺品など約100点を一堂に展示し、鴨居 玲という稀有な画家の全体像を浮き彫りにします。