1945年から55年、敗戦からの10年とはどのような時代であったのでしょうか。まず、占領下にGHQ主導で日本社会の前近代的な構造の改革が図られ、国民の間に自由な戦後民主主義の新体制への期待が膨らみますが、1950年代に入ると、早くも日本社会は東西の冷戦に引き込まれていきます。52年4月にはサンフランシスコ講和条約・安保条約が発効し、これが戦後史の重要な転換点となります。美術家たちにとってこの時代は新しい自由を得て自己を見つめ直す契機となりました。
敗戦から数年間の時期には、戦時体制下に変質を余儀なくされた美術団体の再結成や分離独立があり、美術団体連合展、日本アンデパンダン展などが新しく企画され、戦前・戦中に自由な発表が妨げられていた前衛的な傾向をもつ作家たちの間ではそれぞれの再出発への模索が繰り広げられました。戦時中の困難にも屈せず芸術家の自由な精神の堅持を唱えた、松本竣介は、戦後いち早く沈滞した美術家の連携と再起を促しました。松本が1948年に没した後も、鶴岡政男や麻生三郎などは戦後社会の人間の内面を表現した作品を発表します。また、山口薫や村井正誠、森芳雄などは、具体的なモチーフから出発し、形や色、マチエールの要素を用いて、画面に充実した自律的な構図を作る方向をあくまでも追求しています。そして吉原治良は形体を単純化、転換して抽象表現を進めていきます。いっぽう、戦争中に厳しく抑圧されたシュルレアリスムの作家たちは、自由を得て、敗戦後の虚無感や、エネルギッシュで混沌とした戦後復興の時代の感覚を写し、人間の内面の謎に迫る幻想的な表現を繰り広げました。さらに、丸木位里、俊や山下菊二ら、戦争の惨禍、現実社会の矛盾や問題点を告発する作家たちにも注目します。
この展覧会は、戦後70年の節目に、このような戦後美術の出発を、1945年から1955年にかけて制作された洋画を中心に、たどろうとするものです。