大野智史は、原生林をバックにスピーカーや人物像、プリズムや螺旋のイメージを描いてきました。現在、富士山の袂にアトリエを構える大野にとって、原生林は生命が生まれ、終わる場所であり、また鮮烈な色彩のプリズムは、美しさと華やかさを秘めた魅力あるものの象徴で、そこに人たちは引き付けられていきます。2013年、大野はダイムラー・ファウンデーションのグラントで、ベルリンに滞在する機会を得ます。そこで彼は、自身も影響を受けたと語るドイツの表現主義的な作品を浴びるように見ながら、一方で、日本とヨーロッパとの気候風土の違い、そこから生まれる絵画的な美意識の違いについて気づき、考察することになります。その体験の一端が、2014年の原美術館での「『アート・スコープ2012-2014』─旅の後もしくは痕」での出品作に現れてきました。
本展覧会は、それに続くシリーズで、プリズムと亜熱帯の植物をモチーフにした絵画を発表します。大野の制作の背景には、東西の美術史と、絵画的な表現についての分析があります。そして、デジタル時代を象徴するような、フラットな色面構成による表現と、描写的な表現を自由に行き来し、時に1つの画面でそれらを拮抗させ、感覚を多層化させながら、絵画の可能性を探求します。