桑畑佳主巳の神戸
神戸という街の「今」は存外、描くことは難しい。多くは観光化された異人館や単なる俯瞰図でしかない。桑畑は生活感の残る市場や商店に市井の息づかいを愛し、やがて近代都市としての印象神戸を描き始める。それは単なる都市景観ではなく、お洒落な街を飲み込んだマッス(塊)としての神戸である。軍艦島のように切り離された建築群の向こうに一筋の明日へ架かる橋。その向こうには色褪せた未来都市。それらはあくまでも美しい色調で描かれ、耳を澄ませば遠き日の熱狂が微かに聴こえ、やがて彼方へと消えてゆく。画家として自立を選んだ覚悟の先に、虫の目としての市井と鳥の目としての都市伝説を孕んだ、今まで誰もが描いたことのない神戸の街を描こうとしている。 島田誠