浮世絵の創始者、菱川師宣 (もろのぶ) の《見返り美人図》のような、下膨れした顔に小さい目の女性は、当時の人々にとって憧れの美人でした。このように、浮世絵に描かれた女性は理想とする美人の典型であり、同時代の美の規範が映し出されたものです。事実、美人画のスタイルは、時代の好みとともに次々と変わっていきました。明和期(1764~72)に華奢で中性的な鈴木春信の美人が一世を風靡すると、他の絵師まで春信風美人を描き始めます。天明期(1781~89)には鳥居清長の八頭身の美人が、寛政期(1789~1801)には喜多川歌麿の現実味を帯びた美人が大流行しました。そして江戸後期の退廃的な美人へと続きます。
このたびの展覧会では、師宣、宮川長春、勝川春章の肉筆画と、西村重長から春信、清長、歌麿、鳥文斎栄之 (えいし)、渓斎英泉、明治の月岡芳年までの版画を展示し、美人画の流れを概観します。各時代を代表する絵師の美人画を通して、豊かな江戸風俗と理想美の競演をお楽しみください。