江戸時代初期、肥前有田の地において日本で初めて磁器が作られました。国内で広く普及しただけでなく、ヨーロッパにも輸出された有田焼は、彼の地で王侯貴族たちに愛でられるなど大いに発展します。明治時代に入り貿易が自由化されると、新政府の殖産興業政策に乗じ、海外市場開拓のための製品が生み出されます。細やかな絵付けと精緻な技巧を凝らしたこれらの品々は、明治政府が初めて公式参加した1873(明治6)年開催のウィーン万国博覧会で好評を博します。1875(明治8)年には有田の有力な窯元が「合本組織香蘭社」を設立、万国博覧会向けの精巧な逸品を制作し、フィラデルフィア万国博覧会(1876年)、パリ万国博覧会(1878年)などで高い評価を受けました。その後も有田では香蘭社から分かれた精磁会社や、明治後期に創業した深川製磁などを中心に、伝統に近代的感覚を盛り込んだ優れたデザインの品々が生産されてゆきます。
本展は、来年迎える有田焼創業400年を記念する事業のさきがけとして開催されるもので、今まで顧みられる機会が少なかった明治時代の有田焼を顕彰する展覧会です。万国博覧会出品作をはじめとして、創意あふれる当時の雰囲気を伝える優品、また香蘭社に秘蔵されたデザイン画とそれらを元に制作された品々など、初公開50点以上を含む約200点を展覧します。再現不可能ともいわれる技術の粋を集めた作品を通じて、近年脚光を浴びる明治時代の美術、明治有田の魅力をぜひご堪能ください。