9-10月のTARO NASUはイスラエル出身のアーティスト、オマー・ファストの個展を開催いたします。
日本では初の個展開催となる本展は、ドローン(小型無人機)をテーマとする2つの映像作品で構成される。
ドローンを遠距離から操作し戦闘に用いる術は、イスラエルで考案されアメリカで発展したと言われている。上空から地上を俯瞰し、生殺与奪権を握る神のごとき超越的な存在。その背後には、身の安全を保障されながらも深い心理的苦痛を味わう操縦士の人間的な苦悩が存在する。
ファストは、「居ながらにして居ない」という現代社会が抱える矛盾をドローンを通して呈示する。
「5,000 feet is the Best ―1,500mがベスト」
本作品は2010年にラスベガスのホテルで実際に行われたインタビューに基づいている。
同一の登場人物によって複数回繰り返されるインタビューは、その都度少しずつ内容を変え、元ドローン・パイロットの苦悩を浮き彫りにする。意図的な「反復」と「差異」の巧みな演出によって、現実と虚構の境目は曖昧になり、出口のないループへと鑑賞者を引き込む。
「Her Face Was Covered | 彼女の顔は覆われて」
匿名のドローン・パイロットが、とある場所で行われた実弾射撃任務について語る。
作品はPart1とPart2の二部構成となっている。Part1ではスカイプを通じて録音されたパイロットの証言と映像が、Part2では、パイロットの証言と、その証言と同じ文言をインターネットの画像検索に入力することで得たイメージのスライドが交互に映し出される。
人間が作り出したにもかかわらず人間を超えた存在に変容していく、現代のテクノロジーの問題点とそこに潜む闇について呈示する。
体験を語る、再現するという行為と、そこにメディアが介在した時に起こりうる変容を暗示しながら、ファストは私たちの記憶や歴史がいかにして作られるのかを問いかけているのかもしれない。