G3では、第106回目の展覧会として、「相撲生人形と押絵『西国三十三所観世音霊験記』」を開催いたします。当館では、所蔵作品である安本亀八《相撲生人形》の存在と価値を市民に広く知っていただくため毎年作品公開を行っていますが、公開とあわせて、生人形を生み出した熊本の市民文化に注目し紹介していくという方針で作画展を開催しております。
本展は、当館所蔵の《相撲生人形》とあわせて、益城町所蔵の押絵「西国三十三所観世音霊験記」の修復事業に注目し、修復後の作品群や作品下絵の公開をともに行うものです。
押絵「西国三十三所観世音霊験記」は、もうひとりの熊本出身の生人形師である松本喜三郎の最高傑作《谷汲観音像》(淨国寺蔵)を制作するきっかけとなった伝説的な大興行「西国三十三所観世音霊験記」からインスピレーションを受けて制作されたものです。この大型の押絵作品群は制作当時に全国巡回し人気を集めました。
この作品群の制作には3人の女性が関わっています。押絵作者は深浦春、背景及び人物の下絵作画を担当した小川マス、背景を担当した中島千壽です。深浦春と小川マスは、共に小川の母に押絵技術を学ぶ仲でした。観音信仰に厚い深浦は、女子工芸学校(現・実践女子大)で学んだ小川マス、そして中島千壽の助けを得て、押絵「西国三十三所観世音霊験記」を制作したのです。
熊本における市民文化のうち、再評価が進む近代の女性たちによる美術工芸作品に表れる美意識や技術の高さをご確認いただけますと幸いです。
(主任学芸員 冨澤治子)