約1300年ほど前、権力者たちの墓の墓室の壁に描かれた唐代の壁画たち。それらの壁画は当時の様子を伝えてくれる史料としてだけでなく、その伸びやかな筆づかいなどから、絵画作品としても非常に質の高いものであることが分かる。
しかし、これら墳墓の壁画は、その材質の弱さゆえに時代を経るにつれ風化し、色あせ、壁面が欠落するなどの損傷をまぬがれない。そこで、現代の中国の画家唐 昌東が、この貴重な文化を後世に伝えるべく、長い年月をかけて数多くの壁画模写を行ってきた。壁画をありのまま正確に写しとることよりも、一つの絵画作品としてのまとまりや線の勢いを保つことに重点を置いて描いたそれらの作品は、厳密には「模写」というよりも彼の「作品」と呼ぶ方がふさわしいのかもしれない。
本展では、唐氏の壁画模写作品約90点により、唐代の墳墓壁画を中心に、仏教美術の宝庫である敦煌莫高窟の壁画も加え、世界に誇る大唐壁画の世界を紹介する。