資生堂ギャラリーでは、2015年10月23日(金)から12月27日(日)まで、「小沢剛展帰って来たペインターF」を開催します。
小沢剛は、時代や歴史を見つめ、しなやかな感性と創造力でユーモアと機知に富んだ作品で知られ、国内外で活躍しています。2013年のフェスティバル/トーキョーでは、イェリネクの戯曲「光のない。(プロローグ?)」の演出に挑むなど活動の幅を広げ、今最も注目を集める日本人アーティストです。
今年、日本の各地で戦争と美術の関係をテーマにした展覧会が催されています。1919年にオープンした資生堂ギャラリーは、戦争により一時期閉鎖するのですが、戦局が悪化するなかでも1944年12月まで展覧会を行い、平和と美しいものの価値を叫び続けてきました。戦後70年を締めくくる展覧会として、本展で小沢は、戦争の時代を生きた日本人画家をテーマにした新作を発表します。
小沢は2013年、第5回アフリカ開発会議の際に横浜創造都市センターで開催された展覧会で、福島とアフリカの関連から生まれた作品、「帰って来たDr.N」を発表しました。それは、福島出身の野口英世の生涯をもとに、小沢が生み出した架空の人物「Dr.N」の物語を、インスタレーションとして展示した作品です。インスタレーションを構成する絵画や映像は、野口英世が晩年黄熱病の研究を行った、アフリカ・ガーナの看板画家やミュージシャンたちと小沢が共同制作しました。
「帰って来た」シリーズ第二弾となる本展は、戦争中にインドネシアで従軍した架空の日本人画家「ペインターF」の戦前から戦後の生きざまを物語にして、絵画と映像作品に仕上げます。インドネシアでは日本軍の占領下だった1943年に、現地の住民への宣撫活動を目的として文化施設が設けられました。そこでは現地住民への美術教育が行われ、戦後のインドネシア画壇にいくばくかの影響を与えたのではないかともいわれています。
本展の物語作りは、実在した従軍画家たちをリサーチすることから始めました。残されている記録や研究をもとに、日本人の一方的な考えでなく、インドネシアの美術史家、ペインター、ミュージシャンらと複眼的な対話を重ね、今回は物語を作るところから作品制作まで全て彼らと共同で制作しています。
戦争中のように、考え方がひとつの方向に進んでいかざるを得ないときの「ペインターF」の身の置き方、また戦後価値観がガラリと変わってしまったなかでの「ペインターF」の生き方を、多様な価値観のなかで生きる現代の我々と照らし合わせてみることができるのではないでしょうか。また、グローバル化が進む時代に、インドネシアと日本に生きる者たちが相互的視野のもと歴史を振り返り、ありえたかもしれない過去を想像して作品をつくる行為は、他者に対する知識を深め、未来の新たな創造と関係性への呼びかけとなるのではないでしょうか。
資生堂が企業理念として掲げる「美しい生活文化の創造」は、他者とのコミュニケーションを通して、美の多様性を認めることでかなえられるのではないかと考えます。時代、国境、世代などを越えて思考をめぐらす小沢の作品が、これからのコミュニケーションについて考えるきっかけとなれば幸いです。