スイスを拠点として、国際的に活躍する出版者であり、デザイナーでもあるラース・ミュラー。
本展で紹介する一〇〇冊の本は、そんなミュラー独自の世界を形づくっている、テーマや形式へのこだわりを具現化しています。
氏は一九八三年以来、建築、デザイン、タイポグラフィ、さらには社会問題などの幅広いテーマを取扱いながら、何よりデザイン性に優れた数々の本を世に送り出してきました。
鋭い選択眼によってコンテンツを選び、また同様の厳しさを持ってその内容に最適な表現形式や素材を追求する姿勢は、他の追従を許しません。
ひとりのデザイナーとしての、創作に対する信念を前面に出すことを自制しながらも、自身の原点が現代スイスグラフィックデザインの伝統にあることを、一冊一冊の中で巧みに表現しているのです。
一〇〇冊の本は、テーマ別、表現形式別に分類されており、それぞれ眺めたり、実際に手に取ってみたりできる構成となっています。その狙いは、激変するメディア世界にあって、今日、本がどのような立ち位置にあるのかを来館者の皆様と共に考えることにあります。
ラース・ミュラーがひとつ確信していること、それは本が「モノ」として持っている心地よさ、スタイルの豊かさ、知覚を刺激する官能性など、未だデジタルには代替できない要素が、本にはあるということ。
よって、本は今後も私たちが注目し続けるに値するものであり、また、さまざまな文化圏を先導するデザイナーや知識人たちが、「本」という形に信頼を寄せていることにも納得がいくといえるでしょう。