DIC川村記念美術館の展示室には、雰囲気の異なる11の部屋があります。所蔵作品にあわせ、大きさや意匠を変え設計したためです。
印象派をはじめとするヨーロッパ近代絵画の部屋は天井がアーチ型で床はカーペット敷き、居間のような親しみと雰囲気のある空間を意識してつくられました。一番小さな展示室には17世紀オランダを代表する巨匠レンブラント・ファン・レインが描いた肖像画をひとつだけ。白い壁がすっきりとした明るいモダンな空間には近代彫刻を配し、シュルレアリスムやダダなどの作品には床と壁面をグレーで統一した内向的な部屋を設えています。
グループで見せる部屋のみならず、一人のアーティストに捧げられた展示空間ではより作品に合わせた設計がなされています。フランク・ステラの大型作品群には、大きな壁面と広い床面積が特徴の自然光が入る板張りの大空間が用意され、さながら作家の制作スタジオで初期から近年までの作品を一気に体験するかのようです。また当館を代表するマーク・ロスコの連作「シーグラム壁画」(7点)の部屋は、各壁面に作品を一枚ずつ展示できるよう変形七角形に設計されており、赤い作品群が壁のように空間を包む効果が企図されています。
こうしたオーダーメイドの展示空間は、作品の魅力を十分に引き出し、見る人と作品を緩やかに結び合わせる最適な場となっています。本展では各展示室を巡りながら、あらためて作品と空間のしなやかな関係に注目します。