東京国立博物館は平成14年、創立130周年を迎えました。これを記念して、金銀を使った世界に類を見ない装飾美術、蒔絵に焦点をあて「江戸蒔絵―光悦・光琳・羊遊斎」を開催します。
黄金の輝きは、古くから人々を魅了し続けてきました。ツタンカーメンの黄金のマスクに象徴される紀元前エジプト文明、そして、エル・ドラドの名で知られる南米の黄金境伝説。金の魅力と美しさを物語るエピソードは、いつの世にも尽きることはありません。
ところで、金を装飾に用いる場合、板や箔、あるいは鍍金といった形をとるのがふつうです。この展覧会でご覧いただく蒔絵では、金は微細な粉、あるいは粒の形に精製され、それを器物の表面に蒔きつけることによって文様が表されます。金の利用法として、まことにユニークなものであることがおわかりいただけるでしょうか。
蒔絵の歴史は古く、奈良時代にまでさかのぼることができます。その後、時がうつるにつれ、蒔絵はさまざまな新機軸を加えてすばらしい進歩を遂げてきました。そのゆきついたところが、今回のテーマ、江戸時代の蒔絵、というわけです。
展覧会は、全体を7つのコーナーに分け、平安時代以来、連綿として受け継がれてきた伝統の様式と、それに対抗して興ったさまざまな新様式との相克を浮き彫りにします。技巧の限りを尽くした大名お抱えの蒔絵師たちの作品、鋭い切れ味をもって主題に迫る光悦、光琳の蒔絵、往時の華燭の典を彷彿とさせる大揃いの大名婚礼調度。いずれをみても名品揃いのこの展覧会は、訪れた方のすべてを深遠な蒔絵の森に誘い込むに違いありません。