江戸末期、長崎・出島のオランダ商館付き医師として来日したフィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(1796-1866)は、滞在中、鳴滝塾で西洋医学、博物学などを広めた人物として知られています。その一方で、彼は日本の自然や文化に深い関心を寄せ、帰国後、日本に関する研究所を三種類著しています。その中の一つである『フローラ・ヤポニカ(日本植物誌)』は、シーボルトがもっとも力を注いで取り組んだ著作であり、植物学上重要な位置を占めています。
シーボルトは、日本の植物を調査するにあたり、植物の実物標本を収集するとともに、日本の絵師たちに数多くの植物画を描かせました。シーボルトが日本から持ち帰った植物画の中には、彼の手足となって数多くの植物画を残した長崎派の川原慶賀(1797-1862頃)をはじめ、本草学者の水谷助六(1779-1833)、幕府の医官をつとめた桂川甫賢(1797-1844)、狩野派の清水東谷(1841-1907)などによる、さまざまな作品が含まれています。これらの植物画は、西洋伝来の写実性と日本の伝統美が融合した独特の情緒を漂わせており、芸術作品としても高い水準を示しているといえます。
今回出品される植物画は、シーボルトの死後遺族によってロシアに売却され、現在サンクトペテルブルグのコマロフ植物学研究所に保管されているものです。本展では、同所が所蔵する貴重なコレクションの中から、日本のボタニカル・アートの原点とも呼ばれる約140点の植物画を紹介いたします。