人々の暮らしにゆとりが生まれ、様々な町人文化が花開いた江戸時代。大都市江戸の繁栄と共に発展し、大衆に愛されたのが浮世絵でした。江戸中期の明和2年(1765)、浮世絵に色の革命が起こります。浮世絵師・鈴木春信を中心とするグループにより、多色摺木版画の新しい技術が考案され、「錦絵 (にしきえ)」が生み出されたのです。カラーの印刷物を庶民が楽しむ。それは当時、世界にも稀な奇跡でした。
明治以降、西洋の人々にも愛好されるようになった浮世絵は、現在、世界各地の美術館に所蔵されています。アメリカ合衆国北東部、ペンシルベニア州のフィラデルフィア美術館は、130年以上の歴史を誇る、全米屈指の美術館です。現在、4,000点以上もの浮世絵を所蔵していますが、これまで一部作品が里帰りしただけで、その全体像が日本で紹介されたことはありませんでした。昨年、同美術館の協力の下、主要な浮世絵師の全作品を調査する機会を得ました。その成果として、錦絵誕生からちょうど250年となるメモリアルイヤーに、同コレクション選りすぐりの浮世絵を皆様にご紹介いたします。
浮世絵初期の稀少な鳥居派の役者絵に始まり、錦絵草創期、一筆斎文調、勝川春章の格調高い役者絵や美人画、浮世絵黄金期、鳥居清長、喜多川歌麿のみずみずしく生命感に溢れる美人画、そして、葛飾北斎、歌川広重の名所風景画から上方浮世絵まで、代表的な絵師たちの名品の数々により、大河のような浮世絵の歴史をご覧いただきます。中でも、夢の中のような恋人たちを描いた春信の作品30点余は、極上の保存状態のものが含まれており、必見です。また、舞台上の役者を、生き生きと個性豊かに描いた東洲斎写楽の大首絵10点が勢ぞろいするのも見ものです。皆様のご来場をお待ちしております。