1931年 東京に生まれた渡辺豊重は、一貫して独特のユーモアあふれる芸術世界を創造して来た美術家です。その作品は、現在までのほぼ60年に及ぶ長い画歴の中で、さまざまな様式を変遷しながらも、つねに生きることの喜びにあふれ、洗練された形と鮮やかな色彩で表現されています。
長く住んだ川崎から、1990年に栃木県の馬頭町(現・那珂川町)にアトリエを構え、制作の拠点を移してから、栃木の豊かな自然に包まれて渡辺はいっそう伸びやかなかたちと色で生命の喜びを謳って来ました。しかし2009年から始まる大作の《鬼》《動刻》シリーズでは、金を背景にした漆黒の墨による異形の鬼や津波を出現させ、それまでの明るく楽しいイメージをくつがえすような変貌を見せました。
「描き始めて60年、画を楽しんで今まで生きてきた。」と語る渡辺の「画楽60年」展は、今なお日本の現代美術の第一線で活躍を続けている渡辺豊重の作品から約130点を選び、絵画、水彩・素描、版画、立体作品に至るまで、初期から本展のための最新作までの展開を、一堂に紹介する初の回顧展です。