キネティック・アートとは、「動く芸術」のことです。その名のとおり、機械じかけで動いたり、光ったり、目がまわるような錯覚をもたらしたり……私たちの感覚に直に訴えかけてくる実験的な世界が広がります。キネティック・アートは終戦後、進歩する科学技術を芸術に取り入れようとする気運のなか、1950年代後半から60年代にかけて、ヨーロッパを中心に盛んに制作されました。その多くは幾何学的な形や線をもとにしているため、はじめは親しみにくい印象を受けるかもしれません。しかし、作品の角度や視点の移動によって思いがけない見え方があらわれるので誰もが楽しめ、見る人と作品の相互の関わりを鮮やかに浮かび上がらせてくれます。この展覧会は、ジョセフ・アルバース、ブルーノ・ムナーリなど先駆的な作家も紹介しながら、主にイタリアで活躍した作家たちの作品を通して、キネティック・アートをふりかえります。ほぼ半世紀前に未来を夢見たこれらの作品からはレトロな雰囲気が感じられる一方、現在のメディア・アートに通じる先鋭的な感覚を見出すこともできるでしょう。視覚の魔術を繰り広げるキネティック・アートの世界を、夏休みにぜひご家族でお楽しみください。